戦争法と税金

(1)アベノミクスと軍事費

国民は安倍首相のいう「この道」とは、これまでは「景気回復の道」「アベノミクスの道」だとばかり考えてきました。ところが2014年12月の総選挙の後では、それがにわかに変わってきています。2015年2月の施政方針演説で、安倍首相はこう述べています。「日本を取り戻す」そのためには「この道しかない」「安定した政治の下で、この道をさらに力強く前進せよ」これが総選挙で示された国民の意思であります(中略)経済再生、復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性活躍、そして外交・安全保障の立て直し。・・・「戦後以来の大改革」であります。

いつの間にか、安倍首相の言う「この道」は「景気回復の道」から「日本を取り戻す道」へ、「外交・安全保障の立て直しの道」へ、「戦後以来の大改革の道」へとすりかわってきています。

安倍首相は20113年9月、米国のハドソン研究所での講演で次のように述べていました。「日本経済の再建に一生懸命に努力しつつ、同時にわが国安全保障の仕組みを新たなものにしようと、やはり懸命に働いている。」「いまや脅威がボーダレスとなったこの世界で、日本はきちんと役割と担うことはできるか」と自ら設問。「自衛隊が集団的自衛権行使の活動をすれば、現行憲法解釈では違憲となる。そうならないようにする(憲法解釈の再検討をする)」と決意を表明。「日本という国は、米国が主たる役割を務める地域的、そしてグローバルな安全保障の枠組みにおいて、鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならない」と軍拡の決意を披露したのです。

すでに安倍内閣は、2013年12月17日の閣議で、外交・安全保障の指針となる「国家安全保障戦略」を閣議決定。地球規模で軍事的関与を強めていくことを宣言しています。同時に14年度から18年度の5年間の「中期防衛力整備計画」(中期防)を決定。総額は24兆6700億円にのぼります。安倍内閣になってから軍事費は急増しています。(図1参照)

図1

中期防2年目にあたる2015年度予算では、一般会計で4兆9801億円、復興特別会計を含めると5兆130億円の軍事費が計上されました。史上最高額となっています。この大軍拡計画には、オスプレイのようなテイルト・ローター機(輸送ヘリ)や、戦闘機F-35、イージスシステム搭載の護衛艦や潜水艦、水陸両用車など、海外に出動して戦争をするための装備が目白押しです。

安倍首相は就任以来、外交活動を積極的に行っていますが、どこにで軍需企業や原発メーカーを引き連れて、武器輸出・原発輸出のために奔走しています。官民一体で推進している軍需産業育成・武器輸出拡大は、アベノミクスの隠された「成長戦略」です。アベノミクスの裏側で大軍拡がすすんでいます。

(2)戦争法と税金

7月15日、戦争法(安全保障関連法案)が衆議院で、自民党、公明党により強行採決されました。日本を戦争をする国にする憲法違反の戦争法に、国民の怒りが沸騰。今、「参議院で廃案」を求める、空前の運動が起こっています。

元防衛官僚の柳沢協二氏は、戦争法の財源について次のように述べています。「中国に奇襲された米軍の艦艇を自衛隊が守るというが、そのために一体どれくらいの兵力が必要なのかの議論が全くない。現状の4個の護衛隊群では全然足りず、最低あと2個護衛隊群が必要となり、西太平洋までの距離の長さを考えれば、ミサイルや弾薬の備蓄もいまの数倍に増やさなければならない。米国の船を守るために自衛隊を出したら、肝心の日本の防衛が手薄になり、その分の補強も必要になる。いずれにせよ大規模な軍備の増強と防衛費の増加が想定されるわけだが、財政的裏付けに関する話が一切ない。」と安倍首相のいい加減さを批判しています。

「集団的自衛権」の行使容認は、軍事費の質的、量的な変質、膨張をもたらし、遠くない将来には、消費税増税の意味を変えるものにもなりかねません。「軍拡増税」として、消費税増税にとめどなく拍車をかける恐れがあります。

政府は「消費税の増税分はすべて社会保障に充てる」と説明してきました。ところが2015年度の消費税増税分8.2兆円のうち、「社会保障の充実」に使われるのは1.35兆円にすぎないと言われています。残りのうち3兆円は、基礎年金国庫負担分を2分の1に引き上げた分の財源に充当されます。0.35兆円は、消費税増税によって増加する社会保障支出の穴埋めに使われます。最後に3.4兆円は既存の社会保障費の財源に充当されます。つまり社会保障費のこれまでの財源を、消費税に置換えるということです。その結果、社会保障以外に使える財源が増えることになります。それが、軍事費や公共事業、法人税減税の財源に使われれば、結果的には消費税増税分を、それらに使ったのと同じことです。(政府資料から垣内亮氏が計算、「議会と自治体」2015年3月号)

(3)憲法違反と納税者の権利

憲法違反の戦争法により軍拡が進めば、大増税が必至です。この大増税に国民の納税義務はあるのでしょうか。

昭和55年11月、大野道夫牧師を中心とする「良心的軍事費拒否の会」の会員たちは、東京地裁に「納税者訴訟」を提起しました。自己の所得税額のうち、軍事費相当分の「納税拒否」を求める訴訟(差押処分無効確認等請求訴訟)です。ある納税者が納付した租税を軍事費に使用することは、彼の納付した税額のうち軍事費相当分について、彼の「納税者基本権」が法的に侵害されることになるという訴えです。

北野弘久日本大学名誉教授は憲法30条の納税義務について次のように述べています。福祉・平和の憲法である日本国憲法の下では、人々は自分たちが納付した租税が、憲法の意図する福祉・平和のためにのみ使用されることを前提としてその限度で、かつ憲法の応能負担原則にしたがって、つまり各人の能力に応じて、納税の義務を負うのである。日本国憲法の下では、納税者には右のように租税の徴収と使途に関する憲法規範原則にしたがってのみ納税の義務を負うという権利(納税者基本権)が存在する。(「税法学原論」第四版、75頁)

憲法9条を破壊して軍拡・戦争への道をすすめようとする戦争法。これは納税者国民の負担を異常に増大させるとともに、国民の平和的正存も危機に陥れます。

戦争法廃案は「戦争への道」をストップし、国民の命とくらしを守る根源的なたたかいです。そして「果てしない消費税増税の道」「軍拡増税」をストップさせる戦いです。

 

(会報公平税制 第360号 2015年8月15日)