菅隆徳のひとこと
(1)トヨタ「法人税ゼロ」
トヨタ自動車は2014年5月8日、2014年3月期の決算を発表しました。
2014年3月期連結決算(米国会計基準)は、営業利益が前期に比べて73.5%増の2兆2921億円、純利益も89%増えて1兆8231億円となり、リーマンショック後の落ち込みを回復しました。
豊田章男社長は同日、都内で開いた決算会見で
「(09年6月に)社長になってから国内で一度も税金を払っていない。やはり企業というのは税金を払うことで社会貢献をやっていくというのが企業の存続の一番の使命だと思っている。
そういう意味で納税ができる会社としてスタートラインに立ったことが素直にうれしく思っている」
と述べました。
トヨタが08年度から12年度まで5年間、法人税を1円も払っていなかったことを明らかにしたのです。世界に冠たるトヨタがなぜ法人税ゼロで済んでいたのでしょうか。
①トヨタ単独決算の動向と法人税
決算発表では連結決算が主として発表されます。しかし、トヨタ自動車の税金の申告納付は、トヨタの単独決算に基づいて行われます。
そこでトヨタの単独決算の推移は(表①)のとおりです。
(出典)有価証券報告書。2014年3月期については2014年5月8日の決算報告
08年9月のリーマンショックの影響で自動車の販売台数が落ち込み、トヨタは08年度は1826億円の黒字決算でしたが、09年度は-771億円、10年度は-470億円の赤字決算となっています。
11年度、12年度は回復して再び231億円と8562億円の黒字決算となっています。5年間合計では9378億円の黒字になっています。
法人税は利益にかかる税金ですから、法人税の税率30%としても、少なくとも2800億円程度の法人税があってもよいはずです。
なぜ5年間法人税ゼロで済んでいたのでしょうか。
法人税の金額は次のように計算されます。
法人税=(税引前利益+①-②)×法人税率-③
ここで言う①(加算額)は交際費、寄付金など、税法上損金に算入されないものです。
②(減算額)は受取配当益金不算入額、欠損金の繰越控除などです。
③(税額控除)は試験研究費の税額控除、外国税額控除などです。
ですから①から③がなければ2800億円程度の法人税があったはずですが、法人税がゼロということは、結局②及び③によるものです。
そこで以上の考え方に即して、なぜ法人税がゼロなのか、その要因を事業年度を追って解明してみましょう。
②08年度
税引前当期純利益は1826億円ありました。
この年度は受取配当を利益(益金)から差引く、受取配当益金不算入額780億円があります。
それでも課税基準となる法人所得は黒字となり、法人税が算出されました。
しかし、海外子会社が外国に支払った税金をトヨタ自身が払ったものと見做して法人税額から差し引く「外国税額控除」895億円、研究費の1割程度を法人税から差引く「試験研究費の税額控除」(研究開発費減税)161億円などが適用されるため、法人税は0になったと推測できます。
③09年度 10年度
いずれの年度も赤字決算ですが、これらの年度においても、受取配当益金不算入額(そのうちの大部分は外国子会社受取配当益金不算入と思われます。トヨタの有価証券報告書では外国子会社受取配当益金不算入を区分していません)が、各年度の所得金額をさらに減らしていると考えられます。10年度の繰越欠損金は1376億円になりました。
④11年度
税引前当期純利益は231億円ありました。
受取配当益金不算入額(その大部分は外国子会社受取配当益金不算入と思われます)が、4095億円あります。
このため所得金額がマイナスとなり、法人税額が0になったものと思われます。
この結果、その他の要因を含めて、11年度の繰越欠損金は3562億円となりました。
⑤12年度
税引前当期純利益は8562億円ありました。
受取配当益金不算入額4425億円、繰越欠損金当期控除額3562億円があります。
その他の所得増の要因も含めて、法人所得は黒字になったと思われますが、試験研究費の税額控除283億円、外国税額控除60億円(源泉所得税の納税と思われます)、その他の要因により法人税額がゼロになったものと思われます。
※08年度から12年度までの受取配当益金不算入額、試験研究費の税額控除額、外国税額控除額、繰越欠損金額は、筆者が有価証券報告書に記載された各年度の金額から推算したものです
⑥トヨタ法人税ゼロの要因
ここまでトヨタが法人税を払わなかった、08年度から12年度までの内容を見てきました。
この5年間の法人税の減税額の明細を示したものが(表②)です。
⑥トヨタ法人税ゼロの要因
09年度、10年度の赤字決算の欠損金の繰越控除は除いて、トヨタは法人税ゼロの要因として、受取配当益金不算入(外国子会社受取配当益金不算入を含みます)で3594億円、外国税額控除で895億円、試験研究費の税額控除で444億円、合計で約5000億円の租税特別措置による減税、大企業優遇税制の恩典を受けてきたことが明らかになりました。
この減税がトヨタに法人税ゼロをもたらしたと言っても、言い過ぎではないでしょう。
トヨタは07年度に海外生産が国内生産を上回り、13年度にはグループ全体で、国内生産429万台、海外生産582万台となっています。
この結果「国内で生産し、輸出で稼ぐ」という従来の姿ではなく、「海外で生産し、稼いだもうけを国内に配当する」という収益構造に変化してきたと言われています。
09年度からは、海外子会社からの配当を95%非課税とする制度がつくられ、トヨタはこの制度の恩恵を存分に受けています。
(2)トヨタ自動車の法人実効税率
ところで08年のリーマンショックをはさんで、最近のトヨタ自動車の実際の法人実効税率はどうなっているのでしょうか。
(表③)がその詳細を示しています。
06年度から13年度までの8年間の税引前当期利益と法人税住民税事業税の割合が示されています。
これによれば、トヨタの8年間平均の法人実効税率はわずか25.2%です。
消費税を5%から8%へ増税する一方で、法人税の引下げを目指す政府や財界は、アジア諸国並みの法人実効税率25%実現を目標にしています。
ところがトヨタ自動車は、様々な大企業優遇税制、租税特別措置によって、この25%をすでに実現しているのです。
政府の「法人税改革」の議論では、このような大企業優遇税制の問題を一切議論していません。
議論では「法人税改革」は「わが国企業の競争力を強化するため」税率を下げることが目的であるとあからさまに主張され、
しかも「負担が一部の黒字法人に偏っている現在の負担構造を見直す」としています。
大企業を中心にした黒字企業の負担はさらに軽くして、中小企業が多い赤字法人などには増税して、「広く薄い」法人税を目指すというのです。
税金の負担能力のある大企業には、優遇税制を廃止し、その能力に応じた応分の負担を求めるべきです。
それこそが豊田社長のいう「社会貢献」「企業の存続の一番の使命」だと言えるのではないでしょうか。